つくり手とお客さんをつなげる小売店 第2回 眼鏡の聖地へ

31 March 2022

つくり手とお客さんをつなげる小売店 第2回 眼鏡の聖地へ

SHARE ON

日本一のメガネ生産量を誇るまち、鯖江。
近年は各メディアなどでも取り上げられ、メガネの産地として全国的にその名が知られるようになりました。今回は、『田中眼鏡本舗』の店主・田中さんがメガネの魅力を探るため、初めて鯖江に訪れたときのお話です。

田中昌幸 氏
福岡県出身。眼鏡量販店で販売を経験後、福岡から福井に移住し、約20年前に『田中眼鏡本舗』をオープン。

メガネの産地・鯖江に引き寄せられて

地元の学校を卒業して、某メガネ量販店で販売の仕事をしていた田中さん。
そのころはまだ、メガネに対して特別な感情や愛着はなく、生活のために眼鏡を売るといった感覚でした。ところが入社して4、5年目には仕事に慣れてしまい、一通りの知識がつくと、いわゆるマンネリに。毎日の仕事に刺激が足りないと感じるようになっていました。しかし、ここからが人生の分かれ道です。思い切って転職するか、そのまま惰性を続けるか・・・。
田中さんの場合は、そのうちに悩むことが面倒になってきて、ある時、漠然と「俺はすごいメガネ屋さんになろう」と思い立ったそうです。
でも、肝心のメガネの産地にはまだ行けていない。そこで、自分の見識を広めるためにも、刺激を求めて鯖江市に向かいました。

鯖江駅前の様子(写真は約10年前のもの)

JR鯖江駅に着いてまず驚いたのは、メガネのメの字もないこと・・・。
今から20年以上前の鯖江は、メガネで地方を活性化しようという風潮はなく、ここは何もないという印象を受けた田中さん。日本製眼鏡枠の約95%以上を生産しているのだから、メガネ産業の賑わいが肌で感じられるはずなのに。しかし、バイパス通りを車で走らせると、大きな工場があり、路地には小さなメッキ工場や「磨き」と書かれた看板があちこちに見えてきました。そこで、ようやくほっとしたことを覚えているそうです。

そして、ある金属フレーム工場に案内してもらったところで、またまた驚くことになります。今までメガネの完成品しか見たことがなく、メガネが非常に複雑に造られていることを知り、衝撃を受けたのです。なかでも度肝を抜かれたのはメガネの製造工程の多さ。メガネはフレーム枠の成型に始まり、様々な加工、組み立て、調整など、デザインによっては150~300もの工程を経て造られます。
「メガネのことを何も知らずに一人前に知ったつもりになって、俺なんか素人だ。メガネってこんなにスゴイんだ!」。
それからは、メガネに対して多くの発見や学びがあり、とことん夢中になっていったそうです。

さらに、公衆電話に置かれていた電話帳(企業名編)を見たときも、驚きを隠せなかったといいます。それは、メガネ業種欄のページが異常に分厚いことでした。普通ならば眼鏡販売店の掲載が2、3ページあるぐらい。そこにはメッキ、磨き、ロウ付け、ねじ、そして増永眼鏡の人事部の電話番号までがびっしりと印刷されていました。当時はインターネット環境もないために業界を調べるすべがない。その電話帳にはものすごい数のメガネに関わる会社の情報が詰まっており、どうしてもそれが欲しくなって自宅へ持って帰ってしまったのでした。

その後は、地元に帰って電話帳をしげしげと眺める日々が続きます。
ここにいてもしょうがない・・・。
ついに1冊の電話帳に後押しされる形で、福井に拠点を移し、念願のお店をオープンさせることになりました。しかし、お店で扱う商品は国産の良いものだけと決めていたので、当時の人気だった中国製の安価なメガネに比べると販売価格はなんと3、4倍。
「おそらく、鯖江の業界の人達から見たら、福井市の外れた場所でこんな(高価な)値段でやっていけるはずがないと思われていたでしょう。でも、どっかで潰れてほしくないと思ってくれる人もいるはず、そう思えたからここまでやってこられました」。
もし、福井県産のメガネしか置かないお店が潰れてしまったら、自分たちが造るメガネは売れないことになる。だからこそ、やっていけると思えたのです。

鯖江ではメガネを買う人が少ない?

最近は、老若男女を問わず1万円ぐらいのリーズナブルな眼鏡に人気が集まり、福井県に住む私たちでさえも、鯖江産の眼鏡をかける人が少なくなったといわれています。
ところで、その昔、メガネが配られていたことはご存じでしょうか。鯖江ではご近所さんに果物を分けるように、流通に乗せられない傷がついたメガネは、タダ同然でもらえたというエピソードが残っています。この地域では、何らかの形でメガネに関わる人が多く、あまりに身近だったメガネは「買うより、もらうもの」と認識されていたのでしょうか。
昔はすぐに手に入る鯖江産のメガネでしたが、今では品質の良さが世界に認められ、産地SABAEとしてブランドを確立。次々と新しい技術を取り入れたメガネを造り出し、メガネ愛好家からの注目を集めています。

『田中眼鏡本舗』
ジャパンメイドの商品のみを取り扱い、県内外のこだわりの強いお客様から支持される。鯖江市の『田中眼鏡本舗 浪漫堂』は系列店。
福井県福井市新田塚町701-2N ファインシティビル1F
TEL.0776-28-2515
水曜、木曜定休

SHARE ON

RECOMMENDED ARTICLES

【ご報告・お礼】クラウドファンディング終了致しました。

08 June 2021

2021年度グッドデザイン賞を受賞しました!

22 October 2021

有限会社オプト.デュオ 代表取締役 山岸誉 インタビュー 第1回

26 August 2020

株式会社カンパネラ×オプト.デュオ ~サングラス企画を振り返って~対談シリーズ4

08 March 2021

spec ēspace stylebookプレゼントのお知らせ

27 September 2022

spec espace クリエーティブディレクターより12

06 October 2020